セアカゴケグモ
十数年前、突如日本に姿を現し一躍有名となったセアカゴケグモ。海外か
らやってきた強い毒を持つクモということで大きく取り上げられ、各自治体
では生息調査や防除作業が行われました。その後しばらく、本種に関する目
立った報道はありませんでしたが、ここ最近新たに被害報告が聞かれるよう
になりました。今また新たに問題となり始めたセアカゴケグモの被害に対応
するためには、もう一度本種について詳しく知っておく必要があります。
○●○●○●○●○ セアカゴケグモ ○●○●○●○●○
セアカゴケグモはヒメグモ科ゴケグモ属に分類され、オーストラリアなど
熱帯・亜熱帯の地域に分布するクモです。日本には元々生息していなかった
のですが、1995年に大阪府高石市で見つかったのを皮切りに、本州、四国、
九州、沖縄の各地で次々と発見されました。これは海外からの輸入貨物の中
に本種が紛れ込み、そして国内での荷物の移動とともに各地へ広まったもの
と考えられています。
当初は日本では冬を越せないと考えられてきましたが、研究の結果、成虫
のみならず幼虫、卵でも越冬が可能ということが判明しました。また、これ
といった天敵も少なく、多くの地域で定着が確認されています。
セアカゴケグモの生息環境は多様で、石垣や墓石の隙間、ガードレールや
フェンスの下、あるいはその支柱内部の空洞部、排水溝の蓋の裏やパイプの
中といった身近な場所で見られます。そこに糸を綴って巣を作り生活し、
採餌や産卵もそこで行ないます。
性格はおとなしく積極的に人を咬むことはありませんが、何かの拍子に触
れた際に咬まれることがあります。咬まれた瞬間はチクッとした痛みがある
程度ですが、その後痛みがだんだん強くなり、咬まれた部分は赤く腫れます。
また、発汗や激しい頭痛、嘔吐、下痢、呼吸困難などの症状を伴うこともあ
ります。子供や老人では、症状が重篤化することも考えられますので、被害
に遭った時はただちに医師の診察を受けましょう。
しかし、問題となるのは雌の成虫のみで、それも素肌を直接咬まれた場合
です。衣服や靴、手袋の上からでは牙が皮膚まで到達せず被害を受けること
はほとんどありません。雄成虫や幼虫も毒は持つものの、牙が雌成虫よりも
小さいため、咬みついても人の皮膚を貫けず被害は出ません。
また、雄と雌、成虫と幼虫は外見が大きく異なるため簡単に見分けること
ができます。まず、雌成虫は一般に知られているように体色が黒色で、腹部
には赤い斑紋があります。一方、雄成虫は腹部が灰白色で、その中央には黒
い縦線が2本あります。体長も雌成虫では7~14mm、雄成虫は2~5mmと雌
の方がやや大きくなります。幼虫は雄成虫と同じく腹部は灰白色で、中央に
2列の黒点が数個並んでいます。
日本には他にも体色が黒く、本種の雌成虫と紛らわしいクモが何種類か生
息していますが、腹部の色に注目すると容易に区別がつきます。セアカゴケ
グモの雌成虫の腹部背面には非常に特徴的な赤くて太い線がありますが、他
の種類ではこのような模様は見られません。
防除対策については、本種は殺虫剤に強くないですが、一般に巣の中に潜
んでいるため、生息場所へ薬剤を残留噴霧しても薬剤処理面に十分接触させ
られず、効果が薄い場合があります。それに加えて、営巣場所が狭い空間で
あることが多いので、駆除には速効性と忌避効果を併せ持つピレスロイド系
殺虫剤のエアゾール製剤が推奨されます。卵には殺虫剤が効きにくいので、
予め周囲に薬剤を散布した上で取り除き、踏み潰すなどして処分しましょう。
最後に、本種は特定外来生物に指定されており、生きたまま運搬すること
ができません。安全上の問題も含めて、咬まれた際に検体として病院へ持ち
込む場合や、標本として残す場合は、必ず殺してから回収してください。